無痛分娩は、麻酔を使用し、通常の分娩より痛みをやわらげながら出産する方法です。
「無痛分娩は全く痛みを感じず産むのか?」と聞かれれば答えはノーです。無痛分娩での出産であっても、実際は多少の痛みを感じます。
それは、陣痛です。普通のお産の方だと、その痛みがどんどん増し、産むまで続くイメージです。
無痛分娩の場合、陣痛の始まりは普通にお産される方と同じように体験します。痛みが強くなりだす手前で麻酔を使って、どんどん増す痛みをコントロールして感じにくくするイメージです。
今回は、無痛分娩の基本的な流れとメリット・デメリットについてご紹介します。
1.国内における無痛分娩の現状

日本には約2800の分娩施設があります。そのうち無痛分娩ができる施設は250ほどしかありません(日本麻酔科学会の調査)。
米国やフランスなどでは半分以上の女性が無痛分娩で出産していますが、日本では5%ほどの女性しか無痛分娩を選択していないのが現状です。
(1)無痛分娩はどんな人が希望するの?
1人目を壮絶な出産体験で終えた女性のなかには、2度目も同じ思いをするのは避けたいと無痛分娩を希望する人もいます。
(2)日本ではなぜあまり普及しないの?
日本で無痛分娩を選択すると、誘発分娩になったり、高額な費用がかかったりすることで女性は二の足を踏んでいると考えられます。
それ以上に日本では「痛みを感じないお産なんて良くない」「お産の痛みを耐えてこそ母親になれる」という昔ながらの風潮が根強く残っています。
2.無痛分娩の一連の流れ

無痛分娩の一連の流れをご説明します。
(1)麻酔はいつ入れるの?
陣痛が始まり、病院に行き、
- 子宮の入り口が3~5センチ開いている
- 痛みは7〜8分に1回程度の割合で規則的に感じる
以上のようなくらいが麻酔を入れるベストなタイミングです。
(2)どんな麻酔をいれるの?
歯医者などで使用する局所麻酔と医療用麻薬を合わせた薬を使います。硬膜外鎮痛は効果が非常に強いです。
(3)麻酔はどこにどうやって刺すの?
麻酔を刺す手順は以下の通りです。
- ベッドに横になるか、座って背中をエビのように丸める
- 皮膚に軽い痛み止めを打つ
- 痛み止めが効いてきたところに、カテーテル入れるための太めの針を硬膜外腔に向かって刺す
(太い針であるものの、皮膚への痛み止めが効いているため圧迫感を感じる程度で済む) - 針の中を通して硬膜外腔までカテーテルを進め、針を抜く
時間にすると10分ほどで終了します。
(4)麻酔薬が入ったあとはどうするの?
背中から硬膜外腔に入っているのは、柔らかいカテーテルだけです。カテーテルの先端には注射器がついているので、麻酔量をコントロールすることができます。
始めに薬を注入すると、15分ほどで徐々に効果は表れます。

助産師ポイント
注入ポンプを使用し、持続的投与することもありますが、注入ポンプがない場合には痛みがでてきたら注射器を進め投与します。どちらにせよ、麻酔が切れてしまう心配はいりません。
(5)どんな風に出産するの?
麻酔が入ったあとは歩かず、ベッドで過ごすことが一般的です。普通のお産と比べると、子宮口が開いてくる時間が長くなったり、陣痛が一時的に弱くなったりすることがありますが心配はいりません。
極限の痛みを感じることがないため、いきむタイミングが分かりにくかったり、力がはいりにくかったりすることがあります。そんな時には吸引分娩や鉗子分娩により助けることもあります。
(6)産まれたあとはどうなるの?
分娩が終わると、背中に入れたカテーテルを抜きます。鎮痛効果は少しずつ弱くなり、切れてきます。
数時間後には麻酔の影響はなくなるため、普通のお産と変わらず赤ちゃんと過ごしたり、家族で団らんしたりすることもできます。
3.無痛分娩のメリット

無痛分娩で出産するメリットをご紹介します。
(1)陣痛で感じる痛みが軽くなる
分娩が進むにつれ、強く感じるようになる激しい痛みをあまり感じずに産むことができます。少しのお腹のはりと軽い痛みを感じながら、気づくと子宮は全部開いていることもあります。
(2)お産後の疲労が少なく回復が早い
激しく襲ってくる痛みを感じながらのお産だと、体力の消耗はもちろん、精神的なダメージも大きくなます。
産後の回復が早いことは、上の子どもがいる、仕事復帰予定が早い、産後手伝いが期待できないなどの環境にある人にとっては安心材料となります。
(3)合併症のある妊婦への負担が少なく出産できる
妊娠高血圧症候群や心臓疾患を患う妊婦にとって、身体への負担を大幅に減らすことができます。
陣痛のストレスや痛みで血管が収縮し、血圧が上昇するのを防げます。
4.無痛分娩のデメリットとリスク

麻酔を使用することで、起こるデメリットや考えられるリスクをご紹介します。
(1)分娩中に足の感覚が鈍くなる
足に力が入りにくくなることや、触られている感覚が一時的に鈍くなることがあります。
(2)分娩中に血圧が下がり気分が悪くなることがある
局所麻酔薬の影響で血圧が下がったり、気分が悪くなったりすることがあります。
(3)排尿しにくくなる
尿意を感じにくくなったり、尿をだしにくくなったりします。無痛分娩中は、細い管を使って定期的に導尿することが一般的です。
(4)硬膜外腔や脊髄くも膜下腔に血液や膿の塊ができるリスクがある
硬膜外血腫や膿が溜まり神経を圧迫することがあります。発生したときには、早急な手術で血腫や膿を取り除く必要があります。
5.無痛分娩に関するよくある質問

無痛分娩で妊婦さんからよくある質問を助産師の経験をもとにまとめました。是非参考にしてください。
Q:無痛分娩は本当に痛みは感じませんか?

Q:無痛分娩は赤ちゃんへの影響はありますか?

Q:普通分娩より無痛分娩の費用は高くなりますか?

Q:どこの施設でも希望したら無痛分娩できますか?

無痛分娩を行うには、麻酔をかけられる麻酔科医や産婦人科医がいて、それを管理できる看護師や助産師が必要です。
残念ながら、今の日本では「24時間体制で無痛分娩をいつでも受けられます」という施設は少ないのが現状です。
Q:途中で無痛分娩に切り替えることはできますか?

私の勤務していたクリニックでは、いつでも無痛分娩を希望すればできると言う珍しい所でしたが、無痛分娩を選ぶ方はあらかじめ通院中に希望を出している方がほとんどでした。分娩途中で「無痛にしたい」と言い出す方は極数人でした。
あらかじめ希望しておくと、医師からの事前説明もきっちり受けられます。自分自身が納得して無痛分娩を選ぶことができ、安心してお産に臨めるのではないでしょうか。
まとめ
改めて以下に無痛分娩のメリット・デメリットをまとめています。
メリット | 陣痛で感じる痛みが軽くなる |
お産後の疲労が少なく回復が早い | |
合併症のある妊婦への負担が少なく出産できる | |
デメリット | 分娩中に足の感覚が鈍くなる |
分娩中に血圧が下がり気分が悪くなることがある | |
排尿しにくくなる | |
硬膜外腔や脊髄くも膜下腔に血液や膿の塊ができるリスクがある |
今の日本では、無痛分娩には様々な意見があります。でも、少ない痛みで産後の疲労が少なく出産できるのは事実です。
一方、費用負担は増え、副作用の心配もゼロではなく、誘発分娩になるなど制約があることも事実です。
時代の流れとともに、痛みに関する考えも変わっていきます。歯科医での治療、今でこそ痛みを感じない治療が主流ですが、昔は痛みがあるのが一般的でした。
溢れる情報から、正しい知識を得て、皆さんが納得できる選択をすることが1番ではないでしょうか。
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「痛い、痛い」と普通に出産される方と同じように言葉を発しますが、最高潮の痛みが少し軽い感じです。中には麻酔コントロールが上手くいき「ほとんど傷みを感じなかった」という産婦さんもいます。こんな方は稀だと考えて下さい。